- 2024/06/18
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9月21日、日本アドバンス・ケア・プランニング(ACP)研究会(代表理事=三浦久幸国立長寿医療研究センター在宅医療・地域医療連携推進部長)の第9回年次大会が札幌市で開催される。多くの人に関心を持ってもらおうと、主宰者や関係者によるプレ研修会が企画されている。5月24日には、札幌市で活動する介護・医療関連の有志団体プラネットによる研修会に約100人が参加。ACPについて学び合った。
プラネットは、高齢・障害者の相談支援を行う北海道ケアマネジメントサポートリンクや、地域の高齢者の主体的なサークル活動を支援するシーズネットなどを運営している奥田龍人さん、札幌市内でデイサービスを運営する村中恵太さんらが主宰している任意団体だ。札幌市の介護・医療現場の幅広い職種に向け、定期的に「学びと交流」の場を提供している。大々的にアナウンスしているわけではないが企画すればいつも満員御礼。5月24日は、秋のACP研究会の年次大会に向けて、大会長を務める医師・澤田格さん(西岡病院内科部長)らを招いての勉強会としたところ、あっという間に参加者は100人に達した。
最初に登壇したのはナースエナジー代表取締役で看護師の亀井沙織さん。亀井さんは、地元札幌で24時間365日看護師が付き添い、看取りまで行う「看護付き宿舎なはちがる」を運営している。ためらいなく抑制する急性期病院での看護に疑問を抱き、訪問看護に転身。だが、地域のなかでも医療依存度の高い重度者や障害者、低所得者を受け入れない介護施設が少なくない現状を目の当たりにし、誰もが安心安楽に暮らせる住まいをと開業した。
「うちに紹介されてくる患者さんたちはみな、病院から全身状態が悪化している、終末期だと言われた人たちです。ところが経口摂取できないと診断された人の7割以上が、実は口から食べることができているのです」(亀井さん)
医療から見放された患者でも再び生命力を取り戻すことができる。亀井さんはそれを「看護だからできるエナジーサイクル(生命力)の回復」だと表現する。健康を保つフィジカル面へのケアだけでなく、孤独にしない、意思を聞くなどメンタルへの働きかけ、そして家族への支援や役割を持つこと、社会とのつながりを取り戻すことなどソーシャルな部分まで、トータルにかかわることだという。こうしたケアの実践を積み続けていま、ACPに対して思うことは「意思に応える、尊重するということだけでなく、その人個人の生き方、生き様を知って心から支えたいと思うようになる。患者経験価値を高めるためのACPではないかと考えるようになりました」と話した。
また、大会長を務める澤田さんと、弁護士の福田直之さん(札幌総合法律事務所)は、ACPについて医療行為への意向やリビングウィルと同じだという認識がまだあり、「医療に軸足があるわけではない、結論ではなく全ての健康ステージを支えるプロセスである」(澤田さん)と強調。厚生労働省のガイドラインを踏まえた「ACPサイクル」を2人で考案したことを紹介した。本人を中心に、①「話す(医療のこと、気がかりなこと)」②「残す(書面など)」③「伝える(家族や医療者、第三者への環境設定)」④「見直す(折に触れ、タイミングよく)」――を常に円を描くように続けていくことで、本人が自ら考えたり、家族等が本人の推定意思に基づいて考えるようにすることが大切だという。実際に2人で関わった事例では、経口摂取が困難なレベルの嚥下障害になっても胃ろうを拒否する高齢患者に対し、このACPサイクルを約3周行ったところで胃ろうは造設せず緩和ケアで療養継続を行うことにしたという。
「変わる意思も変わらない意思も確認する。見直す、繰り返すことが重要なのです」(福田さん)。情報共有ツールを使った記録には、2人が患者の状態をきめ細かく確認し、予後を判断しながら、訪問して患者や家族と対話を繰り返していることが残されている。義務や手続きではない、誰のための何のためのACPなのか。常に問い続けることが大切なのだろう。
ACP研究会では、7月にもプレ研修会を予定している。オンラインで参加費無料だ。詳細はホームページを。