- 2024/08/13
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医療機関で退院支援に携わる医療ソーシャルワーカー(MSW)は、保証人不在から生じる問題を切実に感じてきた。愛知県医療ソーシャルワーカー協会では、全国に先駆け2013年から保証人問題に取り組む委員会を設置し、身寄りのない患者への支援の実態調査を2回行ってきた。特に2019年の調査では、保証人代行団体とのかかわりに重点を置いた。
愛知県医療ソーシャルワーカー協会・保証人問題委員会委員長 川本崇人さん
調査の概要を見てみよう。協会に加盟する749人のうち、2018年度以降入退院支援を行っている会員を中心に206人が回答した。所属機関の病床種別では一般病床が最も多く76・2%。地域包括ケア病床38%、回復期リハ病床31%、老健施設25%。緩和ケアや精神科病床、診療所が2割ずつと多岐にわたる。保証人不在をキーワードに、支援で生じた困りごとや患者の意思決定能力による影響、保証人代行団体の資料を検討する理由など、踏み込んだ質問項目が並んでいる。
その調査結果から見えてきたのは「ほかに選択肢がない。やむを得ず保証人代行団体を利用せざるを得ない」というMSWの悶々とした思いだ。
「保証人が不在で、かつ本人の判断能力が不十分なため財産管理に問題が生じた場合、3割が保証人代行団体を利用していましたが、利用を検討する際に不安を感じているという人が9割にも上っていたのです。さらに、ソーシャルワーカーとして保証人代行団体との契約を最優先に検討すべきか、との問いには35%がそう思うと答えている。不安を抱えつつも保証人代行団体以外に選択肢がないととらえていることが見えてきました。これが非常に重要な問題だと思います」
保証人問題委員会の委員長を務める川本崇人さん(江南厚生病院患者相談支援センター所属・社会福祉士)はそう話す。回答者の多くが所属する急性期病院は、基本的に身寄りがいようがいまいが治療が必要な患者を断らない。だが、在院日数の短縮化の流れのなかで、早期に退院・転院先を見つけなければならない。
「身寄りがないことが問題なのではなく、本人の判断能力があるかどうか、意思決定ができるかどうかが支援の困難さに大きく影響しています。治療の同意、支払いなど一気に問題が噴出し、そのリスクは次の転・退院先にも引き継がれる。保証人という存在がいなければ患者さんは行き場を失ってしまうのです」(川本さん)
成年後見制度の市町村長申し立ては数カ月かかることが多い。スピーディかつ柔軟に対応してくれる保証人代行団体は、その意味でも助け舟となっているのは事実だ。だが、前述したように決して最善の選択肢と受け止めているわけではない。その内容を具体的に聞いたところ、数多くの不安の声があがってきた。
「本人の意向や状態の変化に適切に契約内容を見直してくれるのか」「本人の判断能力に不安がある状況で、団体との契約が本人の権利を守ることにつながるのか迷いがある」
金銭管理や本人の意思尊重への不安。そしてそれを上回るほど寄せられたのが、保証人代行団体の信用性に対する懸念だ。
「サービス内容について詳しい説明がなかった」「契約通りの対応をしているか退院後はわからない」。最後まで不利益が生じないよう祈る気持ちでいる、という声もあった。さらに、患者や親族などから団体に対するクレームを受けたMSWも2割いた。想定外の利用料金の高さ、担当者の対応の悪さなどが多かったという。
では、国のガイドラインによってこうした不安は解消されるのだろうか。
「ガイドラインには保証人代行団体の質の確保や、利用者の選択の一助になるメリットがあるのは事実だと思いますが、お金のない人は代行サービスを利用できません。それ以前に、ガイドラインは保証人代行サービスを利用することを前提としています。果たして身元保証は必ずしも必要なものなのか、という問題に向き合うことが本質ではないでしょうか」
川本さんがそう提起する理由は、調査によって保証人代行団体を利用せずとも、地域の社会資源につないだことで患者が望む退院先へ移ることができたケースが複数確認できたからだ。例えば、同居していた息子から虐待を受けて緊急入院した高齢者への支援では、成年後見センター、ケアマネジャー、市役所、療養型施設などが継続してかかわり、入所できた。また、救急搬送されて認知症やがんの診断を受けた患者は、看取りまで可能なサービス付き高齢者向け住宅との話し合いで、成年後見人がつくまでの間は保証人なしで受け入れてくれることが合意できた。ここでも多数の機関がかかわった。
「身寄りがないのは誰のせいでもなく、誰もが保証人不在になる可能性があります。本来は保証人がいなくても安心して暮らせる社会が目指されるべきではないでしょうか」(川本さん)
協会では今後も実態調査を行い、より各地域の中で身寄りのない方を支えるために地域資源との効果的な連携の在り方について明らかにしていきたいと考えている。