- 2024/11/08
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若い世代の「夢」を後押し
単独型の訪問介護事業所で、キャリアパスや人事評価制度を導入している事業所は、まだ多くはない。高知県四万十市で訪問介護と居宅介護支援を展開する「あらたケアサービス」(荒川泰士社長)は2020年から新しい人事評価・賃金制度を導入。管理者コースだけでなく、ヘルパー業務と同時に新領域のサービスを提供したり、介護業務の専門性を高めるキャリアステージを設定している。訪問介護事業を通じて地域社会に貢献したいという若い世代の夢を後押ししたいと話す。
あらたケアサービスは、常勤・登録ヘルパー合計17人の単独型の訪問介護事業所だ。うち約半数が70代のヘルパー。新卒や若いヘルパーからの応募はなかなかない。このままいけば事業が継続できなくなるという危機感は多くの事業所が抱えているところだろう。
全国ホームヘルパー協議会の副会長で、同社社長の荒川泰士さんが現在の制度を導入したのは2020年。それまでも処遇改善加算Ⅰを取得するために作成したキャリアアップ制度があったが、より詳細で個々に合わせた仕組みにしたいと考え、作成し直したという。
同社では図の通り、スタッフのキャリアを大きく4つに階層化している。G(ジェネラル)2は初任者研修修了、G1は実務研修修了レベル、S(スペシャリスト)はヘルパー業務を行いながら新たな領域の専門性を習得・提供する段階、M(マスター)は専門性の高い介護技能を磨き、在宅介護の専門家を目指す段階。ビギナーは資格取得前の段階で、将来的にはこうした未経験の人材を雇用し育成していくことを目指している。
スタッフの上にはリーダー(サービス提供責任者)、管理者、経営を担う事業部長――という管理職のステージがある。また、マスターやスペシャリストでは「独立」の方向性も示している。
各キャリアステージで求められる基本姿勢、業務、知識・技術、受講すべき研修を細かく整理したシートも作成し、職員全員に周知。それぞれ昇格するには何を行えばいいかが一覧できる。
これらを踏まえ、全職員が年2回自己評価シートを記入し、管理者や社長が面談を行う。評価結果は昇給、賞与、昇格とリンク。訪問介護の管理者クラスの月給は手取りで30万円程度。ケアマネの給与の相場と比べても遜色ない。
同社が同制度を導入するきっかけとなったのは、高知県福祉・介護事業所認証評価制度だ。認証を取得すると、求人票に県の認証マークを使用でき、職員の研修受講費に対する補助を受けられるなどのメリットがある。認証の要件に「将来を見通せるキャリアパスの導入」が位置付けられていた。
「これからは、ヘルパー業務だけではなく、業務を通じて見えてきた地域課題や利用者のニーズに対し、新しいサービスを生み出して提供する“多様なあり方”が重要だと考えていました。キャリアパス構築の伴走支援もしてくれる認証評価制度を活用すれば、それまで自分が描いてきた理想の事業を形にできると考えたのです」(荒川社長)
導入後、若い人材には変化が現れ始めた。26歳のパートヘルパーAさんは、今年3月に介護福祉士に合格。その後の個人面談で「子育てが落ち着いたら正職員になってリーダーになり、独立したい」と今後のキャリアに意欲を見せた。荒川社長の期待も膨らむ。
「たとえばデイに行く利用者の服をコーディネートしておしゃれをしてもらう、脳梗塞の障害があっても飲みに行ける場をつくる…などのサービスが提供できれば、ヘルパーにとっても利用者にとっても夢や希望につながると思います」
荒川社長は、20代のころイギリスへ渡りカーレーサーとして活動していた。介護の世界で働く若い世代にも、制度の中だけで汲々とするのではなく大きな夢を持ってほしいという思いを、このキャリアパスに込めている。