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要介護になっても「やりたい」を諦めない 川崎市 かわさき健幸福寿プロジェクト
  • 2024/12/24
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介護状態の維持・改善で報奨金も

高齢者人口の増加に伴い、介護費用も増大している。厚生労働省が9月に公開した統計によると、保険料や給付費を含む2023年度の介護費用額は約11兆5千億円と過去最多。高齢者の家計だけでなく、保険者である自治体の財政も圧迫している。川崎市では双方の負担緩和を目的に、介護状態の維持・改善を実現した事業者に対し報奨金を支給する「かわさき健幸福寿プロジェクト」を行っている。市財政への寄与にとどまらず、昨年は85人の要介護度が改善するなど一定の効果を出している。

川崎市高齢者事業推進課 中村隆永課長

かわさき健幸福寿プロジェクトは「介護が必要になってもやりたいことを諦めないでほしい」という思いのもと、事業所と利用者が一体となって要介護度やADLの維持・改善に取り組むプロジェクト。1年間取り組んだ事業所のケアを評価し、成果に応じて報奨金などインセンティブの贈呈を行っている。市は報奨金などによる支出があるが、要介護度が上がることによる介護費用の上げ幅より小さく、制度の持続可能性が期待される。事業規模は約3700万円。市の財源のほか、一部ふるさと納税で賄っている。

「1年間一生懸命取り組むことで、利用者の状態像のほか意欲など気持ちの部分でも効果が表れています。特別なケアを行う必要はないんです」

そう話すのは、川崎市高齢者事業推進課の中村隆永課長だ。本プロジェクトは、参加するとケアマネを中心とした専門職が一体となり、利用者に対してチームケアを行う体制をとる。とはいえ、介護保険サービスは普段から多職種でケアにあたるのが基本のため、新たに特別なケアを始める必要はない。利用者の「やりたい」を叶えるため、関わる人みんなが高いモチベーションで取り組めるのが特徴だ。

事例を見てみよう。市内の特養に入所する木村さんは81歳・要介護3。脳梗塞を発症し介護認定を受けたのち、10年前から入所している。かわさき健幸福寿プロジェクトには6年前から参加しており、「趣味を楽しむ生活を続けたい」という本人の希望のもと、日常生活動作を中心にケア中訓練として行っている。入所以来10年間要介護3を維持しているというから驚きだ。

「要介護度を改善するというのももちろん大切なのですが、上がらないように維持することがすごく大切なんです。介護費用への寄与という意味でもそうですし、何より事業所におけるケアの意識向上や、本人の生きる希望にもつながります」

2023年7月から行われた第8期プロジェクトでは、551人の介護サービス利用者が参加し、期間中に要介護度の維持・改善につながった人は313人と約6割を占める。報奨金が贈呈される事業所はその中でも一部(図)だが、期末にアンケートを行うと約8割の事業所から「効果があった」との回答があるという。

介護保険制度上では、利用者のADLを良好に維持・改善していると評価された場合に「ADL維持等加算」などが算定できる。確かに維持・改善に取り組む動機になるが、加算の算定は介護費用の増大をも意味する。

「事業所にとっては加算の取得も大切ですが、最終的に利用者負担の増大にもつながります。他都市でも類似の取組を行っていて、どの都市でも介護費用は財政的に厳しい。本取組が全国に広まってくれればありがたいです」

市独自で行っている事業のためいつまで続けられるかは不透明だというが、保険料がどんどん膨らむなか自治体・事業者・利用者と三方良しの取組は、非常に意義のあるものといえる。

現在、川崎市の要介護認定者数は約5万人。プロジェクトに参加する人はコロナ禍を除き年々増えてきているというが、知名度にはまだまだ課題がある。

「できるだけ市民の方から『参加したい』と言ってもらいたいんです。要介護認定を受けると気持ち的に沈んでしまう方も多いので、『みんなで頑張れば地域で元気に暮らしていける』ということを伝えていきたいと思っています」(中村さん)

今後の展開からも目が離せない。

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