- 2025/01/07
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誰もが集う「壁」のない居場所
青森県で在宅サービスなどを提供する池田介護研究所(青森県八戸市、池田右文社長)は青森県三沢市で、カフェバー・貸しスタジオ・デイサービスが一体となった多世代型地域交流施設「サードプレイスミサワ」をオープンしている。星野リゾート青森屋が運営する日帰り温泉施設に隣接し、周辺には米軍三沢基地も存在。駅から徒歩3分で、ふらっと立ち寄る人も多い。地域の人や観光客でにぎわう場所で、年齢や国籍に拠らないボーダーレスな居場所を提供している。
「介護は区別されるものじゃなくて、そこにあるのが当たり前のものになってほしいんです」
池田介護研究所の池田右文社長はそう話す。以前はデイサービスに務めていたという池田さんだが、人手不足により個別的なケアができなかった経験などから起業し、現在はデイサービスなど在宅サービスを中心に展開する。
池田さんの発想は常識破りだ。これまでも介護と仕事を組み合わせて、デイサービス利用者が漬物などを生産から販売まで行い、新幹線に乗って都内で販売を行う「東京行商ツアー」などを行ってきた。また、2023年には、投資家に事業計画をプレゼンテーションし、出資を募るYouTube番組『令和の虎』に380人目の挑戦者として出演。スマートフォンを使用したリモート体操や、スマートウォッチを用いてバイタル測定を行えるアプリ「Everyday」を発表し、500万円の融資も受けている。
「高齢者だけでなく子どもや大人も元気でいられる日本の未来を目指したい」と話す池田さん。それを実現するため、かねてより「高齢者」「障害者」などの枠にとらわれない包括的な居場所の提供を模索していた。デイサービスにカフェや貸しスタジオを併設する、サードプレイスミサワの構想自体は7年前からあったというが、コロナ禍の延期を挟み、昨年ようやくオープンさせた。
カフェバーでは、日中には委託している事業所による就労継続支援A型としてランチを提供し、デイサービス利用者もカフェの運営に加わる。夜には池田さん自らがレコードバーとして営業。米軍関係者らを含めた地域の人たちの居場所だ。
貸しスタジオでは、講演会や各種イベントの開催用に1時間2千円で場所を提供。企業による展示会やヒップホップのイベントなどが開催され、すでにたくさんの利用がある。利用がないときも、子どもたちに向けて、プロジェクションマッピングを用いた遊びながら学べるプログラム「デジスタ」を提供するなど、日常的に様々な属性の人が訪れる。
デイサービスでは、これまで池田さんが行ってきたノウハウを展開。農作業や加工品販売を通じ、介護と仕事などを組み合わせて自立を目指す「セルフデザイン」のほか、アプリ「Everyday」を活用し、その場にいない利用者も含めて体操を行うなど、常識にとらわれないケアを提供している。
そして、何よりこれら3つの居場所(サードプレイス)が物理的な壁に隔たれず、ほとんど同じ空間に存在しているのが特徴だ。そこには池田さんの「介護は区別されるものじゃない」という考えが反映されている。
「昨年はデイサービスの利用者がカフェでくつろぐなか、貸しスタジオでアートネイチャーさんの展示会が開催されました。普通はあまり見られない光景だと思いますが、壁がないというのはこういうことだと思うんです」(池田さん)
次回の介護報酬改定は厳しいものになると予想されるなか、池田さんは保険内と保険外を組み合わせて事業を続けられる仕組みが必要だと話す。池田介護研究所の保険外サービスもうまく組み合わせながら展開する取り組みは、利用者のボーダーレスな社会参加にとどまらず、新たな産業価値を生み出すことにもつながっている。