- 2025/02/21
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高齢者の転倒は老年症候群の一つとも言われ、転ぶリスクは年齢とともに上昇する。職員に瑕疵がなくても防ぎきれない一方で、施設での転倒事故は訴訟へと発展してしまうケースも少なくない。栃木県の老健施設「やすらぎの里八州苑」(医療法人木水会)では、職員と家族の間で密に情報共有する取り組みにより、トラブルに発展する事例がなくなったという。
やすらぎの里八州苑は栃木県栃木市にある老健だ
栃木県栃木市の端に位置するやすらぎの里八州苑は、入所定員100人の施設。介護保険制度上でいう超強化型老健だ。在宅復帰に力を入れている八州苑では、リハビリのサポートも充実している。しかし、高齢者のリハビリにはどうしても転倒リスクが付いて回る。全国老人保健施設協会でも「転倒予防策を実施していても、一定の確率で転倒が発生する」「転倒は老年症候群の一つ」などの声明を発表しているが、ひとたび施設で転倒事故が起きれば、訴訟などのトラブルに発展しかねない。
「6年ほど前に利用者の転倒・骨折が原因で、ご家族とトラブルになったことがありました」
理事長の小松原利英さんはそう話す。その利用者はピックアップ型の歩行器を使用したリハビリを行っていたが、リハビリ中に転倒。骨折し病院に運ばれたが、数カ月後に肺炎を発症し亡くなってしまったという。利用者の死亡は八州苑での転倒によるものではないが、家族は「転倒が起きなければ死ななかった」として市や施設にも苦情が入ったという。
「訴訟にこそ発展しなかったものの、ご家族の元まで謝りに行くことになってしまいました。転倒リスクについて、職員と家族に齟齬があるのは問題だと感じ、それ以降は密に情報共有を行うようになりました」
老健は在宅復帰を目指す施設ということから、病院を退院したのち自宅に戻るまでのリハビリ施設として利用する人が多い。一緒に暮らしていた家族であれば、病院に入院する前の「元気なお父さんお母さん(おじいちゃんおばあちゃん)」という印象が強く残っている人も多く、老健の利用開始時に「どのくらい歩けないのか」「どのくらい認知機能が落ちているのか」など正確な状態像を把握している例は多くない。これが老健職員と家族の間で転倒リスクに認識の差が生まれる要因の一つとなっている。(以下略)