- 2025/06/03
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自立支援がヘルパーの誇りとやりがいに
滋賀県甲賀市で在宅介護サービスを中心に展開しているJAゆうハート(池村正代表)。同社が運営する訪問介護事業所のモットーは「すべての人にやさしい介護」だ。「利用者にとって心地良いケアが職員の介護負担軽減に繋がる」と話す職員たちに、「抱え上げない介護」や身体介護研修に欠かせない工夫について話を聞いた。
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水口(みなくち)ヘルパーステーションでは、常勤・非常勤合計21人の職員が在籍しており、10年以上勤続している職員がほとんどだ。利用者の介護度は中~重度が中心で、利用者数は100人程。身体介護のサービスが多いのにもかかわらず、業務が原因で腰痛を訴える職員はほとんどいないという。
「15年程前のことだったかな。『利用者さんにとって心地良いケアとは何か』ということについて職員全体で考え、まずは排泄介助の見直しに取り組んだことがきっかけです」
「抱え上げない介護」を始めた動機についてそう振り返るのは、同事業所が2000年に開所した当時から在籍している教育研修部門リーダーの工藤さとみさんだ。ある職員が社外で実施された排泄ケア特化型研修に参加し、おむつの履き心地良さの大切さについて学んだという。
「職員からその話を聞いた時に、私たちは介助をサービス時間内に終わらせることを目的としていたことで、利用者さんにとって心地良いケアや自立支援に重きを置いていなかったことに気付きました」(工藤さん)。職員一人ひとりが利用者の立場になり、安心・安楽なケアを追求したことが結果として「抱え上げない介護」の推進につながったという。
「実際にケアを行う際は、利用者さんの残された力を活用できるように工夫しています」(工藤さん)。ベッド上で行うおむつ交換介助の一例では、安価で購入できる市販の滑り止めマットを利用者家族に用意してもらい、利用者の足底に敷く。足の裏に滑り止めが施された靴下も着用してもらう。滑り止めの効果により足元が安定することで、利用者自身の脚力を促進。膝を立ててお尻を自力で持ち上げてもらうことで、職員は利用者の体を支えながらおむつを交換する必要が無くなった。体位交換時は、スライディングシートを使用することで、職員は最小限の力で利用者の体を移動させることができるようになった。
「『抱え上げない介護』をしていなかった頃は、利用者さんが『重くてごめんな……』と仰ることが多かったんです。でも、今の介助方法が自立支援に繋がり、自力でできることが増えたことが多くの利用者さんの自信になっています」と、工藤さんは笑顔で話した。
事業所で実施している身体介護研修では、利用者・家族・ケアマネなどに「抱え上げない介護」の必要性について根拠をもって伝えられることを念頭に置いているという。
「心地良いケアと自立支援が介護者の負担軽減に繋がることを、ケアの手順に沿って相手に説明する練習をしています」(工藤さん)
練習成果の見せ所は利用者のサービス担当者会議だ。説得力のある説明ができればケアマネへの福祉用具導入の提案に繋がる。他職種担当者の理解も深めることで、利用者の日常に「抱え上げない介護」が浸透するよう後押ししているという。工藤さんは「現在は、こちらから提案しなくてもケアプランにスライディングシートなどの利用を組み込んでくださるケアマネさんも増えています」と目を輝かせた。
同事業所で所長を務める宮地綾子さんは、「利用者さんの自立支援にやりがいを見出した職員や、専門職としての向上心が芽生えた職員が増えました」と誇らしげに話した。
「『抱え上げない介護』は利用者さんを自立した生活へと導くもの。在宅介護業界全体で取り組んでいかなければ、職員は疲弊し、利用者の変化に気付くこともままならなくなってしまいます」(宮地さん)
同事業所は、滋賀県社会福祉協議会が2019年度より実施している「抱え上げない介護推進事業」に参加している。現在は甲賀市全体で「抱え上げない介護」の周知に取り組んでいるという。
宮地さん(右)と工藤さん(左)。研修では職員の手作り人形を活用
職員が自ら研修を企画。「人に教えることで技術は身に付きます」(工藤さん)