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転倒への見方を変えよう! 全老健・山口大会でシンポジウム
  • 2025/12/09
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記録や早期の振り返りが重要

全国老人保健施設協会(全老健、東憲太郎会長)は11月27日から2日間、山口県下関市で全国大会を開催した。2日目は、「介護事故」「アドバンス・ケア・プランニング」「人材」など老健施設のさまざまな側面をテーマにしたシンポジウムを開催。介護事故については、転倒などの事故に対する社会の見方や風潮を変えていこうと題して、老年医学の研究者や弁護士、全老健の事故検討会委員などが一堂に会し議論した(写真)。2日間で約3300の人が参加した。

老健施設でリハビリを行い、動けるようになる中で、転倒はある意味でつきものだ。しかし、ともすれば施設側の不注意や過失であるかのようにとらえられることも少なくない。そうした転倒のとらえ方を見直し、できること、できないこと、訴えていくべきことを専門職種間はもちろん、利用者や家族、法曹界とも共有を目指すのがこのプログラムの狙いだ。

最初に登壇した東京都健康長寿医療センターの鳥羽研二名誉理事長は、高齢者の転倒のメカニズムを解説した。転倒を予測する転倒スコアで80歳以上高齢者を調べると、6割以上が転倒リスクが高い状態にあることが分かった。4人のうち3人は転びやすいと指摘。「転倒は身体的原因による老年症候群としてとらえ、本人・家族の共通認識を醸成して疾患予防につとめるべきだ」と強調した。同じく都健康長寿医療センターの秋下雅弘理事長は、薬により血圧を下げすぎて転倒したり、糖尿病管理の過程で低血糖になり転倒することがあるので、ポリファーマシーのチェックが重要と話した。

続いて登壇した2人の弁護士は、認知症グループホームに入所中の自室ベッド横で転倒し、あごを骨折した80代入所者の訴訟について解説。一審では施設側が「入所者の動静確認を怠った過失あり」として敗訴。しかし、高裁では、「転倒は突発的に発生するものであり、防ぐことは難しい」と判断され施設側が逆転で勝訴した。

島戸圭輔弁護士は「地裁の判断を踏まえると、観察や見守りの方法について過失度を評価される可能性がある」として記録の重要性を強調。「転倒やトラブルが起きた時はできるだけ早い段階で記憶が失われないうちに関係者が集まって、振り返りを行ってほしい」とアドバイスした。

武田竜太郎弁護士は、高裁では、転倒は突発的に起こるので防ぐのは難しいと判断され、転倒リスクに対する考え方が地裁と異ったことが逆転判決につながったと分析した。

こうした事故・裁判例を受け、全老健事故検討会の内藤圭之委員は、事故や転倒が起こった場合の施設の賠償事故補償や、利用者家族に支払う見舞金に活用できる利用者傷害見舞金制度などを含む全老健の「総合補償制度」を紹介した。これを活用しつつ「道義的謝罪と法的責任は別物。誠意を見せるための道義的な謝罪をためらわないことだ」と留意した。

同じく、全老健の事故検討会の山野雅弘委員長は、「転倒をはじめとした出来事をゼロにはできないが、すべて施設に過失・責任があるということではない」と改めて強調。1997年に鳥羽教授が「転倒は老年症候群の一種」と書いた論文の公表がきっかけとなり、21年に日本老年医学会と全老健が合同でまとめ公表した「介護施設内での転倒に関するステートメント」にたどり着いたと説明。事故検討会を立ち上げ、施設が適切な対応がとれるよう助言しているほか、利用者や家族、国民、法曹界に老健施設の機能や役割、リスクの正確な情報を発信していくことを目指している。「転倒・転落についてはどの介護施設・医療機関も困っている。まずは防ぐのが難しいことを本人や家族にしっかり説明してほしい」と求めた。

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