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お互いに歩み寄り、強みを活かそう 障害者ヘルパーステーション・マイライフ西
  • 2026/01/06
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TikTokやYouTubeを中心に、重度の身体障害を持つ男性が外国人ヘルパーとの愉快な日常をショート動画で発信するアカウント「ウガリだいすき」が話題だ。言葉や文化、価値観の違いを認め合い、自然体で過ごす二人はまるで仲のいい友達のよう。お互いの間にある壁を打ち壊すヒントは何だろうか。利用者の近藤佑次さん、ヘルパーのイブラヒムさんと、二人を支える障害者ヘルパーステーション・マイライフ西(社会福祉法人AJU自立の家、名古屋市)の望月浩司所長に話を聞いた。

AJU自立の家にはマイライフ西のほかにもう一か所ヘルパーステーションがあり、2事業所が支える利用者数は合わせて約140人。職員は常勤約60人に加えて、有償ボランティアスタッフはなんと400人にも上る。イブラヒムさんも同じく有償ボランティアで活動するスタッフの一人だ。「外国人スタッフはほとんどが留学生です。2020年ごろから登録が増え始めて現在は40人になりました」と望月所長は話す。以前まで大学・専門学校で行っていたヘルパーの募集活動がコロナ禍を理由に中止になった。求人サイトで募るようになったところ、一人のバングラディシュ人が登録。その後、そのスタッフの紹介で友人や知人らが加わっていったという。

「わたしも日本語学校で出会った同郷の先輩から誘われて、2年半くらい前からへルパーを始めました!」とバングラディシュ人のイブラヒムさん。「先輩」というのは、動画にも登場しているヤクブさんというヘルパーだ。

「日本に来たのは自動車整備士の勉強をするためでした。でもヤクブさんが近藤さんといろんな場所に外出したり、楽しそうに話したりする姿を見て、やってみたいと思ったんです」(イブラヒムさん)

ヘルパーを始めた頃に困っていたことを尋ねると「言葉がわからなかったことですね」と苦笑い。近藤さんも同じように笑ってうなずく。

「初めの頃は、身体介助をしてもらっている最中、膝や腕、肩と肘の間などの支えてほしい体の部位が上手く伝わらなかったです。お互いに分かる言葉や表現を探りながら試行錯誤していると、時間ばかりが過ぎてしまってイライラしていたことも多かったね」(近藤さん)。動画内では介助中でもテンポよくユーモラスな会話を楽しんでいる二人にも、根気強く対話を重ねてお互いのことを一つひとつ理解していった過程があったのか――と感服する。相当な苦労だったのではないだろうか。

「どうして意思が伝わらないんだろう? とか、何回聞いても理解できないよ! と思ったことはたくさんあります。でも、何度くじけそうになっても、丁寧に取り組むことは忘れない。強い気持ちで乗り越えました」(イブラヒムさん)

「彼の魅力は持ち前の明るいキャラクターです。地域のイベントに参加する際は積極的に同行してもらい、一緒に他の参加者と交流を深めています。完璧を求めず、ヘルパーさん一人ひとりの得意なこと・苦手なことを精査して、強みを活かしていけばいいと思うんです」(近藤さん)

イブラヒムさんのチャーミングな人柄には、筆者もすぐに惹きつけられた。ヘルパーが地域に馴染むことは、利用者と周囲の人の距離を縮める鍵になるかもしれない。

価値観や宗教文化の違いによって生まれる困難についてはどうだろうか。

「お国柄によっては思ったことをストレートに言うことが多い人もいますね。例えば『入浴介助は疲れるからやりたくないです』とか、応じられないような相談をされることもありました。そういうときは『自分だって毎日お風呂に入りたいよね? 利用者さんのそれぞれの習慣に寄り添ってほしい』というように、丁寧に諭して納得してもらえるように心掛けています」(望月所長)

また、バングラディシュ人の9割が信仰しているイスラム教では、豚肉を食べたり、アルコールを飲んだりすることなどが禁じられている。中には豚肉を触ることはおろか、匂いを嗅ぐこともできない人もいるという。信仰の姿勢には個人差があるため、食事介助などの際にどう対処するかは、利用者がヘルパーと話し合って決めるのがマイライフ西の方針だ。

「利用者さんからは、外国人スタッフとの関わりで自分の意思を相手に伝えるスキルが身についたという声が寄せられています」と望月所長。「対話を通して利用者が『自分のことを自身で責任を持つ力』を鍛えられることが外国人スタッフに活動してもらうメリットだと思います」と近藤さんもうなずく。障害のある人の地域での一人暮らしを推進するAJU自立の家ならではの発想だ。昨年4月から外国人材の訪問系サービスへの従事が解禁された介護業界にも取り入れていきたい。

「今後、人材不足がますます加速していく中で、外国人材は本当にありがたい存在です。まずは1人採用することにチャレンジして、定着にどんな課題があるのか見極めていくことが大切です」(望月所長)

ヘルパー活動は今年3月いっぱいで卒業し、県外の高齢者施設への就職が決まっているというイブラヒムさん。介護職を楽しく続けるためのヒントを尋ねると「仕事が好きだという気持ちが大切です」と力強く話す。

「私の両親は15年前に亡くなりました。たくさんお世話になった両親に恩返しをする――そんな気持ちでこれからも仕事に励んでいきます」


左から望月所長、近藤さん、イブラヒムさん。動画の撮影現場である近藤さん宅にて

けじめある指導で向上心を育てる

外国人材とのチームワークが上手くいかないという声は、多くの介護現場で耳にする。信頼関係を重んじる価値観を理解してもらうことが課題だ。イブラヒムさんの仕事への誠実な姿勢は、先輩ヘルパーのヤクブさんからの影響も大きいのではないだろうか。

ある動画で、外出介助中に近藤さんの傍を離れて一人で動画を撮影しに行ってしまったイブラヒムさんに対し、ヤクブさんが指導を行っていた。頭ごなしに叱らず、まずは「どうしたの?」と行動の経緯を確認。楽しさのあまり仕事中であることを忘れてしまったと説明を受け「それはダメです」と一喝する。責任感を持つことの大切さを伝えたのち「誰でもミスはしますから大丈夫」とほほえむ。

言うべきことははっきりと言い、励ましの一言も欠かさない。そんな思い遣りある指導が、国籍関係なく若手職員の成長を後押しするのかもしれない。


ヤクブさん(右)の指導にイブラヒムさんも素直に反省

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