- 2026/03/10
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移転を機に「頑張ろう」と信頼強固に
介護人材の確保と定着は、介護事業者であればどのサービスであっても悩みの種だ。賃金や制度だけでは測れない「続ける理由」はどこにあるのか。特別養護老人ホーム小鳩園(埼玉県三郷市、社会福祉法人小鳩会、晝間章理事長)は、ノーリフティングケアの取り組みや、社内の風通しの良さなど、その問いへのヒントを示している。
特別養護老人ホーム小鳩園は、埼玉県三郷市にあるユニット型40床・従来型50床の施設だ。もともとは55床の従来型特養として運営していたが、2024年8月に移転リニューアルし現在の体制となった。その「引っ越し」は単なる建て替えにとどまらず、働き方やケアのあり方を見直す契機ともなった。一方で、職場づくりの基盤は新施設から始まったものではない。小鳩園は、旧施設時代からノーリフティングケアに取り組んでおり、リフトやスライディングボードを用いた「抱え上げない介護」を現場に根付かせてきた。移転後は機器を増設し、特別な取り組みではなく日常の手段として扱える状態へと進んでいる。
そんな小鳩園で働く横澤さんは入職約4年半。建設業から転身し、職業訓練を経て介護の道に入った。最初に勤めた特養では十分な指導を受けられずに、短期間で退職。その後、小鳩園に加わった。「小鳩園は分からないことを聞けば必ず返ってくる。当たり前かもしれないが、初めは分からなくて当然と言ってもらえて嬉しかった」と振り返る。
横澤さんが働き続けられている理由の一つは、ノーリフティングケアの取り組みだ。体格の大きい入居者や、体調が優れない場面でも、リフトやボードを用いることで身体への負担が少なく介助することができる。機器の活用は体重移動や姿勢調整を伴い習熟が求められるが、ノーリフティングケアが当たり前の環境になっているため、新人であっても先輩に教えられながら安心して活用することができる。
「機器の活用は初めてでしたが、やっぱり無理せずに使える環境があるのは大きいです。また、新しく入職した人のほとんどがリフト未経験なので、使い方の教えがいもあります」(横澤さん)
もう一つは、人間関係の良さと風通しのある職場風土だ。小鳩園は移転に伴い床数が増加したため、動線や手順の見直しが必要となった。人手不足もあり試行錯誤の連続だったが、その過程を共有した経験が仲間意識を育んだという。移転リニューアルからもうすぐ2年となるが、離職者は出ていない。
さらに、日常的にフロアを回り、職員に対して積極的に声をかける中山美千代副施設長の存在も大きい。「相談しやすい雰囲気が保たれていて風通しが良いので、困ったときにすぐ話せる土壌があります」と横澤さんは話す。施設内のアンケートでも、業務負担は大きい一方で職員の関係は良好との傾向が示されたという。
小鳩園で事務長を務める久保遼太郎さんは「ノーリフティングは機器を入れること自体が目的ではなく、現場に根づかせていく過程が重要だと思っています。施設の移転は働き方を見直すきっかけにもなりました」と話す。機器を誰でも使える標準的なものとして職員の働きやすさを提供し、同時に不安や戸惑いを拾い上げる声かけも行う。ハードの整備と日常的なコミュニケーションを並行して進めることが、結果として定着の土台を形づくっているのだろう。
特養の現場は依然として多忙であり、何か一つの取り組みによってそれらが解消されるわけではない。しかし、無理を前提にしないケアの仕組みと、日々の声かけなどから生まれる信頼関係は、働き続けたい職場環境に確実に寄与している。
事務長の久保さん(左)と横澤さん(右)
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小鳩園の外観。引っ越す前は築50年の2階建てだったが、リニューアルし3階建てに

