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信頼される終身サポート業界へ 全国高齢者等終身サポート事業者協会 黒澤史津乃理事長
  • 2026/03/17
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「サイン屋」で終わらない 高い倫理観を

身寄りなし高齢者などの生活支援などを行う事業者らの業界団体・全国高齢者等終身サポート事業者協会が昨年8月に設立された。身寄りなし高齢者が増加し、国も対策に乗り出そうとしているなか、業界団体を設立した理由は何か。業界の課題とともに全終協の黒澤史津乃理事長に話を聞いた。

高齢者終身サポート事業は30年近い歴史があるが、今改めて業界団体を立ち上げた背景は。

「最大の理由は、この業界が全方向から信頼される存在に育っていないという強い危機感だ。ここ数年、身寄りがない高齢者の増加に伴いメディアで取り上げられる機会は増えたが、業界としての健全な発展や横のつながりは乏しかった。

これから人口構成上、この事業を必要とする人が急増するのは明白だ。しかし、その受け皿となる民間事業者がバラバラのままでは、安心して老後を託せる社会にはならない。

転機は2024年春、私が厚生労働省の身寄りなし高齢者について議論する検討会に委員として参加したことだ。そこで国のガイドラインの骨格が作られたが、『ルールはできても、それを受ける側の業界にまとまりがない』という課題が浮き彫りになった。指針を遵守し、自浄作用を持つ団体の設立が急務だと判断し、志を同じくするメンバーと昨年8月に協会を設立した」

近年、契約を巡るトラブルも報告されている。現場の立場から、問題をどう見ているか。

「直接的な原因は、参入障壁がゼロであるということだ。特別な許認可も法規制もなく、スマホ一台とホームページさえあれば、今日から誰でも『終身サポート』を名乗れてしまう。

しかし、その引き受ける内容は極めて重い。家族が担ってきた役割を代替し、本人の心身が衰えていく過程から死後数十年先にわたる事務まで、人生の最期を丸ごと預かる仕事だ。にもかかわらず、既存の制度や法律の狭間に落ちているため、チェック機能が働かない構造的な欠陥がある。

もう一つ、より根深いのは日本社会の価値観のズレだ。1979年に提唱された『日本型福祉社会』以来、家族のことは家族で解決するのが正解という意識が強く残っている。かつては本人=家族の一体視が成り立っていたが、平成の間に行政や家族のあり方は激変した。身寄りがない、あるいは、いても頼れないという現実があるのに、家族の役割をビジネスとして代行することへの社会的な理解や信頼が追いついていない。このギャップが、不透明な事業者がはびこる土壌を生んでいる」

協会では、国のガイドラインよりも厳しい自主基準を設けている。

「何よりもサイン屋さんに成り下がらないことだ。入院や入所の際、単に書類に名前を書く役割ではなく、終身にわたる意思決定を支援し、それを完結させることこそが本質だ。

具体的な自主基準としては、契約締結プロセスの厳格化を挙げている。人生を預ける契約を1回の面談で即決させるのは論外だ。原則として複数回の面談を行い、契約の内容を十分に理解してもらう。また、判断能力の低下に備え、第三者の目を入れた契約を原則としている。

特に厳しいのは利益相反の排除だ。かつての家族は本人の支出を削れば相続分が増えるという最大の利益相反主体になりえたが、愛情という前提で許容されていた実態がある。しかし、私たちが家族を代替するなら、より高い倫理観が求められる。そのため、事業者への遺贈や寄付は原則禁止としている。例外的に認める場合も、使途を資力不足の人の補填に限定するなど、運営費に回して利益を出すことを厳しく制限している。信頼を得るためには、こうした襟を正す姿勢が不可欠だ」

国は低所得者向けに第2種社会福祉事業として似たような事業の展開も検討している。

「民間は相応の対価を払ってでも質の高い、信頼できるサービスを求める中間層から富裕層の受け皿になるべきだ。信頼の担保には、専門性の高い人材の確保や教育、厳格な審査体制が必要であり、それにはコストがかかる。安易な価格競争に走れば質の低下を招き、再び業界の信頼を損ねるだろう。

一方で、資力のない人への支援は、公的な財源や社会福祉協議会を中心とした枠組みでカバーする二階建ての構造が理想的だ。私たちは民間として培った知見やノウハウを提供し、地域福祉の中で役割を分担していきたい。

現在は団体設立時の7社が中心だが、今後は外部審査員による厳しい審査を通過した正会員を増やし、消費者が安心して選べる優良事業者リストを公表していく。将来的には、この民間主導の動きをモデルとした法整備や、公的な監督官庁の設置につなげていきたいと考えている。誰もが身寄りのある・なしにかかわらず、住み慣れた地域で最後まで自分らしく暮らせる社会を作る。それが私たちの使命だ」


黒沢理事長

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