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誰もが排除されない場づくり 就労継続支援B型事業所ハーモニー 幻聴や妄想をかるたに
  • 2026/05/13
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NPO法人やっとこが運営する就労継続支援B型事業所ハーモニー(世田谷区)では、精神障害を持つ利用者たちが自身の抱える幻聴や妄想をテーマにしたかるた「幻聴妄想かるた」の制作・販売を手掛けている。法人理事長の新澤克憲さんは「精神疾患の症状としての幻覚や妄想に限らず、人によっては漠然とした不安や言葉にしにくい体験があるものです。そんな心のうちを、かるたにしてみたら、ハーモニーの中だけの変化にとどまらず、誰もが排除されない場づくりへのヒントを得ることができたのです」と話す。

31年前に新澤理事長が共同作業所として立ち上げたハーモニー。障害者自立支援法が施行された2006年からは、就労継続支援B型に移行した。合計35人の利用者の中には統合失調症や発達障害などを抱える人が多く、平均年齢は60歳。かるた制作のほか、事業所の軒下に店舗を構えるリサイクルショップの業務などの就労活動を行っている。

「音楽活動や編み物をする人もいます。いろいろな活動があっても、やらなきゃいけないわけでもなく、それぞれが選べる形になっているのがこの事業所の特徴です」

そう話すのはハーモニーに通い続けて10年以上になるという金原正海さん。統合失調症を抱えており、現在は治療で症状が落ち着いたものの、長い間、幻聴や妄想に苦しめられてきたという。

「頭の中に響く声や妄想の中の出来事に翻弄されて気分が落ち着かず、辛い思いを何度もしました」(金原さん)

幻聴妄想かるたは、そんな経験を読み札に短い文章で書き表し、絵札にその様子をイラストとして描いたものだ。読み句の内容を示す絵札を取るという通常のかるたと同じルールで遊ぶことができる。

開所当時から一人ひとりの自由な過ごし方を尊重しながら、利用者は家具などの木工品の制作活動を中心に工賃を得ていたという。しかし、利用者の高齢化が進むにつれて、就労継続支援B型として一定以上の工賃を稼ぐことが困難になった。

「私たちのモットーは、人をいたずらに評価しないこと。高い生産性や、効率よく働いてお金を稼ぐことを求められる世の中の尺度に縛られない場所でありたいと思っています。そんな自分たちらしさを失うまい。でも、少しでも工賃を稼がなくてはと、試行錯誤しているうちに偶然生まれたのが幻聴妄想かるたでした」(新澤理事長)

利用者と職員らが毎週開催するミーティングで、当初は幻聴や妄想による苦労を描いたストーリーの演劇を上演するアイデアが挙がっていたという。「一人ひとりの経験談を集めていくうちに誰かが『これ、かるたにできそうだね』と思いついたのです。それがきっかけでかるた制作が始まりました」と新澤理事長は振り返る。

2008年の1作目の誕生から18年が経ち、今年1月には最新となる4作目を発売した。たくさんの読み札の中から筆者が惹きつけられたのは、金原さんが作った1枚だ。読み札には「チャールズ皇太子と語り合う 昼下がりの寿司屋前」と書かれており、絵札には若かりし頃のイギリス国王の姿が描かれている。

「大学を辞めて家にいた頃、寿司屋の前を歩いていると、空に浮いている皇太子に『なんのご研究をなさっているのですか』と日本語で声を掛けられました。子どもの自然や宗教にかかわる教育の重要性を研究していると返すと、彼は『同感です』と言って消えていきました。自分の事を認めてもらったような気がしてうれしかった」と金原さん。不思議な光景が思い浮かび、思わず笑みがこぼれる。

ハーモニーが福祉系の大学などで年間10回ほど開催する講演では、参加者の漠然とした不安や言葉にしにくい体験をかるたにするワークショップも行っている。

「多様な人が集う場で、経験を語り、それを元にかるたを作ったり遊んだりすることで、お互いの心のうちを少しだけ知ることができます。ひとりひとりが排除されていないと感じる場づくりにつながることに気づきました」(新澤理事長)

互いの揺らぎを認め、いたずらに評価しない。そんなハーモニーのあり方に、障害や年齢の違いを超えた誰もが生きやすい社会をつくるヒントがあると感じた。

最新作「その後の…超・幻聴妄想かるた」の購入などの問い合わせはハーモニー03・5477・3225へ。


新澤理事長(左)と金原さん


本人の話を元に他の利用者がイラストを描き、経験を分かち合っている

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