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町役場と地域アプリを共同開発 徳島発の新しい自立支援の試み(後編)
  • 2024/05/15
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2021年に初めてリリースしたのは、ビデオコールアプリ「イツモツナガル」。ナースコールボタンと連動し、スマートフォンやタブレットで相互のビデオ通話を行うことができる。この製品はコロナ禍で高く評価され、介護施設だけでなく、病院、在宅にも導入された。同社のIT関連事業は「デジタルソリューション事業」として発展し、コンサルティング、ソフトウェアなどの開発を本格的に行うようになった。

神山町とイツモスマイルは協議を重ね、住民専用アプリケーションの開発を開始。23年4月に地域アプリ「さあ・くる」とタクシーアプリ「まちのクルマ」をリリースした。「さあ・くる」は高齢者をはじめ、すべての住民が使いやすいように設計されている。機能は天気予報やゴミ収集カレンダーの他に、行政・防災情報、ビデオ通話、マイナンバーカード連携機能などがある。現在、約2100人が利用しており、神山町の住民の約44%に上る。利用者の約70%が60歳以上だ。

「まちのクルマ」は「さあ・くる」と連携し、利用者は役場で利用を申請することで、タクシーの予約、料金計算などを行うことができる。現在、神山町では約1600人が使用、住民の約33%に上る。

これらの2つのアプリケーションを開発したことで、神山町は町内のタクシー会社と提携し、公共交通機関「まちのクルマLet,s」を開始。高齢者だけでなく、神山町のすべての住民が対象で、発着地のどちらかが町内であれば、運賃の85%は神山町が助成し、個人負担は15%で住む。運賃が5千円の場合、750円を支払う計算だ。乗車人数、回数の制限はない。このサービス開始に伴い、町営バスは廃止された。神山町住民課の松田一輝氏は次のように話す。「自家用車が手放せない土地柄なので、高齢者の免許の返納がなかなか進まない状況でした。『まちのクルマ』の導入により、免許の返納が進み、高齢者がドア・ツー・ドアで安心して外出できるようになりました」

今回の事例で分かるのは、新しい時代の介護事業者とその自立支援の在り方である。小泉社長は次のように言う。「ひと口に自立支援と言いますが、介護保険ができた当初と現代で大きく変わったのは、高齢者が自立して生活するためには、スマートフォンなどのICTが必要になったことです。既存の介護サービスはもちろん必要ですが、高齢者もテクノロジーを駆使すれば、在宅の生活を継続することは十分に可能です。現代の自立支援とは何かということを私たちは真剣に考えるべきです」

同社は神山町の委託で「神山ラボ」を開設・運営し、高齢者にICTの技術的支援を行っている。「高齢者と一番接点のある介護事業者が地域社会のハブになる、というのがこれからの理想です。自治体や企業と協働することで、介護事業者は地域事業者になるのです」

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